12月の社長メッセージは社内向けとして発信したので、社外のかたにはよくわからない内容になっていますので、
今回の配信は20年前のものをアーカイブでお送りすることにします。
当時、つくば大学の村上和雄先生のご講演を拝聴する機会があり、その内容はとても印象的で、
今でもはっきりと思い出せる言葉があります。改めて先生のご著書を読み返してみようかと思います。
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早いもので平成十六年も残すところわずかとなりました。毎年この時期になると感じることは、業績の良し悪しはともあれ、大過なく一年を送れたことに対する感謝の気持ちです。特に誰にというわけではありませんが、お客様はもちろん、支えてくれた仕入先さん、がんばってくれた会社のみなさんへ、そして見守ってくれた神様へということになるでしょうか。反省点は並べればキリがありませんが、無事に乗り切れることも得がたい幸せなのかと感じざるを得ません。
先日、遺伝子研究において世界的権威で筑波大学名誉教授の村上和雄氏のお話をうかがう機会に恵まれました。現在、村上先生は笑うことと病気の治癒の関係を科学的に証明するための研究をされているそうです。糖尿病患者が食後に吉本興業の漫才を見て大いに笑うと、笑わないときに比べて血糖値の上昇が大きく抑えられるという実験結果があるそうです。またガン患者がよく笑う環境の中に身をおくと、ガンの進行が止まったり、逆に縮小することもあるそうです。そのような事実から、笑うことが治癒能力をうながす遺伝子のスイッチをオンにするのではないかという仮説を立てられて、その実証に心血を注がれているとのことです。
また先生は人間の遺伝子を解読したことで、その名前を全世界に知られるようになりましたが、それを解読した瞬間についにやったという達成感を感じる一方で「われわれは書かれたものをただ読んだだけだった。この先にはこの膨大な暗号を書いた存在がある」と気づいたそうです。こんな膨大でしかも一糸乱れず整然と作用するしくみを作ったのは一体誰なんだ。とても人間の技ではなしえないすごい存在がある。それを「サムシンググレート」と名づけたそうです。
私はその話を聞きながら、その「サムシンググレート」に畏敬の念を抱くとともに、それに比べてなんとひとりの人間の力がちっぽけなものかと感じました。生命を育んだ地球の歴史三十六億年から見ればわずか百年足らずの時間でなにができるのだろうか。あまりに無力だけど、自分の存在は遠い祖先からの遺伝子を受け継ぎ、それに新たな刻みを加えて後世につないでいく。年表に記してみたら自分の生きた期間は小さな点にすぎないけれど、その点がいくつも連なって線という歴史になっていくのだなと感じました。長い線も分解していけば数珠のように連なった無数の小さな点なのです。だからその小さなひとつひとつを大切にしていかなくてはいけないと思うのです。
そのような視点で私たちの今年を振り返ってみれば、会社というある程度の大きさをもつものを構成するのはひとりひとりの個人です。ひとりの力は知れていますが、五十人まとまればなかなかのものです。この総合力を強くしていくには、ひとりひとりの力を大きくしていくしかありません。身の回りで不具合が発生した時、多かれ少なかれ「この原因は○○のせいだからおれには関係ない」と思いがちです。悪いことは自分のせいにしたくない、これは当然と言えば当然です。しかし原因を他人や自分以外のものにしている限り、ひとりの力が大きくなることはないでしょう。「この不具合を自分の力で防ぐことができなかったのか」という考え方が進歩の源泉になってくるはずです。他人の責任をいくつ並べてみても何も解決はしないのです。この考え方に気づけばきっとダイヤは大きく飛躍することにまちがいありません。 人間の遺伝子をすべて解読したときに「サムシンググレート」という巨大な存在と人間の存在の小ささに気づき、謙虚に次の目標や夢を描いて実行したところに村上先生のスゴさがあるように思えてなりません。
平成16年12月24日 太田 和隆